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東京地方裁判所 昭和61年(特わ)1818号 判決

国籍

韓国(全羅南道長興郡長興面東里一六七)

住居

東京都港区麻布永坂町一番地五四 麻布永坂ハウス七〇一

会社役員

小沢大助こと

周文三

一九四六年七月二五日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は審理は、次のとおり判決する。

主文

一、被告人を懲役一年六月および罰金一億二〇〇〇万円に処する。

二、右罰金を完納することができないときは、金三〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和四八年二月貸金業を目的とする株式会社大宝物産(同五九年四月一二日、商号を株式会社東京住宅ローンと変更)を設立してその代表取締役となり、同五二年二月消費者金融等を目的とする株式会社レインボー(同六〇年一月二一日、商号を株式会社不動産ローンセンターと変更)を設立してその代表取締役となり、右各会社ならびに関連会社から役員報酬、株式配当等を得ていたのもであるが、自己の所得税を免れようと企て、右両会社に対して架空の田村順一名義で金銭を貸し付け、その利息収入を除外する方法により所得を秘匿した上

第一  昭和五六年分の実際総所得金額が二億六〇三一万二三五四円あった(別紙(一)の(1)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五七年三月一五日、東京都港区西麻布三丁目三番五号所在の所轄麻布税務署において、同税務署長に対し、同五六年分の総所得金額が五〇七七万四八三八円でこれに対する所得税額が八三四万六九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和六一年押第九八二号の3)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億六三九五万七八〇〇円と右申告税額との差額一億五五六一万〇九〇〇円(別紙(二)の(1)脱税額計算書参照)を免れ

第二  昭和五七年分の実際総所得金額が二億五四二二万九三八九円(別紙(一)の(2)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五八年三月一一日、前記麻布税務署において、同税務署長に対し、同五七年分の総所得金額が四八〇八万三八六四円でこれに対する所得税額が五四三万七一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億五八〇八万二一〇〇円と右申告税額との差額一億五二六三万五〇〇〇円(別紙(二)の(2)脱税額計算書参照)を免れ

第三  昭和五八年分の実際総所得金額が二億六三五七万一七三二円(別紙(一)の(3)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五九年三月一四日、前記麻布税務署において、同税務署長に対し、同五八年分の総所得金額が六九五一万〇二〇七円でこれに対する所得税額が一八六五万九三〇〇円である旨の虚偽の所得税額確定申告書(同押号の1)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億六一七〇万六一〇〇円と右申告税額との差額一億四三〇四万六八〇〇円(別紙(二)の(3)脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人の

(1)  当公判廷における供述

(2)  検察官に対する各供述調書(四通)

(3)  収税官吏に対する昭和六〇年四月五日付の質問てん末書

一  松本梅次郎(二通)、小野堯司、加藤岩雄、氏家淳、友成靖、明場四郎、小林茂実の検察官に対する各供述調書

一  明場四郎及び金井通子の収税官吏に対する各質問てん末書

一  収税官吏作成の次の調査書

(1)  雑所得調査書

(2)  受取利息調査書

(3)  関係会社貸付金調査書

(4)  関係会社出資金調査書

一  明場四郎作成の申述書

一  検察事務官作成の電話聴取書

一  検察事務官井出光男作成の昭和六一年八月二〇日付捜査報告書二通

判示第一の事実につき

一  押収してある昭和五六年分所得税確定申告書一袋(昭和六一年押第九八二号の3)、同修正申告書一袋(同押号の4)、収支明細書(不動産用)一袋(同押号の7)、財産及び債務の明細書二袋(同押号の10、16)、所得の内訳書二袋(同押号の13、19)

判示第二の事実につき

一  押収してある昭和五七年分所得税確定申告書一袋(同押号の2)、収支明細書(不動産用)一袋(同押号の6)、財産及び債務の明細書二袋(同押号の9、15)、所得の内訳書二袋(同押号の12、18)

判示第三の事実につき

一  押収してある昭和五八年分所得税確定申告書一袋(同押号の1)、収支明細書(不動産用)一袋(同押号の5)、財産及び債務の明細書二袋(同押号の8、14)、所得の内訳書二袋(同押号の11、17)

(法令の適用)

法律に照らすと、被告人の判示各所為は、そぞれ所得税法二三八条一項に該当するところ、情状により罰金につき同条二項を適用したうえ懲役と罰金を併科することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内において、罰金については同法四八条二項により判示各罪につき定めた罰金の合算額以下において、後記量刑の理由のとおり被告人を懲役一年六月及び罰金一億二〇〇〇万円に処し、刑法一八条により右罰金を完納することができないときは、金三〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。

(量刑の理由)

本件は、判示株式会社大宝物産(現商号、株式会社東京住宅ローン)、株式会社レインボー(現商号、株式会社不動産ローンセンター)のほか、株式会社サンシュー、株式会社俵屋及び株式会社大商(現商号、株式会社小沢グループ本社)などいわゆる小沢グループ各社を支配統括する被告人が、判示のとおり判示両会社に架空名義で有する貸付金の利息収入を除外することにより三年間で六億円余の所得を秘匿し、合計四億五一〇〇万円余の所得税を免れたという事案である。そのほ脱税額は巨額であるうえ、税ほ脱率をみても通算で九三パーセントを越えている。

本件に至る経緯をみると、被告人は昭和四八年二月に資本金五〇〇万円の大宝物産を設立し、同五〇年一月に貸ビル業などを営む資本金四五〇〇万円のサンシューを設立し、同五二年二月には資本金三〇〇〇万円のレインボーを設立し、主として大宝物産、レインボーの二社により金融業を営み、業績を拡大させてきたものであるが、大宝物産の設立直後に同社の営業資金に充てるため、四〇〇万円程度の金員を田村順一という架空名義を用い、日歩八銭という高利で貸し付け、一か月毎に利息相当を元本に組み入れることとし、その後レインボーに対しても同様の処理をしてきたところ、昭和五五年五月末ころには、大宝物産に対する貸付残高が七億八〇〇〇万円余、レインボーに対する貸付残高が六億五〇〇〇万円余に達した。

ところが、そのころ行われた渋谷税務署の大宝物産に対する税務調査において、右貸付金の性格等が問題となったため、被告人は、右田村順一が被告人自身であることを秘匿したまま、右両社への貸付金利息を日歩四銭に引下げ(日歩四銭分は両社の申告時に自己否認)、これを現金で受け取ることとした(形式上は田村順一が両社から受け取る)。右の結果、被告人は田村順一名義で右両会社から昭和五六年以降右貸付金に対する日歩四銭の割合による利息を現金で受け取ったが、被告人としては、右税務調査の際田村順一の実在を主張した関係もあり、これを被告人の収入しとて認めれば、一度に多額の納税資金を必要とするに至る等の事情からこれを除外したまま推移し、昭和五七年に行われた渋谷税務署にレインボーに対する税務調査においても右の事実を秘匿して犯行を継続していたもである。

被告人は、本件犯行の動機として永年に亘って増加した田村順一名義の貸付金を被告人のものと認めれば、その時点で多額の納税資金を必要とし、会社の運転資金にも支障があったと述べているが、もともと被告人の両会社に対す右貸付金の存在は、両会社の利益圧縮の側面もなかったとはいえないのであり、被告人が田村順一名義で所得税申告をしていた事実もないのであるから、これをとくに斟酌すべきであるとはいえない。

また、弁護人は、本件犯行の手段・方法は比較的単純であり、必ずしも巧妙悪質ではないはと主張し、田村順一の住居につき実在しない住居表示を使用していたこと、会社の支払利息につき領収書を徴していないこと、会社の銀行提出用の借入金残高表には自己の貸付であることを明らかにしていること等の事実を挙げているが、金融業者の中には第三者から資金を導入するため金主となる第三者を税務当局に秘匿する者もあり得ることから考えれば、田村順一が仮名でありその住居が架空であるからといって、それが直ちに被告人に対する課税と結びつくわけではなく、その余の弁護人指摘の事実を考慮しても通常の税務調査では容易に真実を発見し得るとは限らないのである。現に渋谷税務署による二度の法人税調査においても被告人の貸付金と断定するまでに至らなかったことは、被告人が金融業界における特殊事情を巧みに利用し、事実を隠ぺいしたことによるものと評価し得るのであって、このような意味において本件の犯情は悪質というべきである。

しかも被告人は、昭和五五年七月二五日横浜地裁川崎支部において、出資の受入れ、預かり金及び金利等の取締等に関する法律違反の罪により懲役八月、執行猶予二年の刑に処せられ、判示第一の犯行は、執行猶予中の犯行であるほか、昭和四四年から同五二年にかけて暴行罪及び高金利徴収の罪で三回に亘り罰金刑に処せられている。

以上によれば、被告人の刑事責任は重いといわなければならないが、反面、被告人は、本件につき昭和五九年九月東京国税局の査察調査を受け、当初田村順一名義の貸付金につき従前の主張をくり返していたが、最終段階において、これを自己のものと認めるに至り、以後の捜査及び公判において一貫して犯行を認めて改悛していること、本件のほ脱結果については、その後修正申告のうえ本税、附帯税及び地方税を完納しているほか、各方面に贖罪のための寄付をして反省の一端を表明していること、被告人はいわゆる小沢グループに属する各会社の統括者であって、これら関連企業も業績の伸長に伴い社会的責任を自覚した企業に脱皮しつつあること等被告人のため斟酌すべき事情も認められる。

そこで、右のような諸般の情状を総合したうえ、被告人の年令、家庭の状況等をも勘案すると、被告人に対しては、主文程度の懲役(実刑)に処することはやむを得ないものと考えられる。(求刑、懲役二年六月及び罰金一億五〇〇〇万円)

よって、主文のとおり判決する。

検察官 江川功、弁護人 神宮壽雄、小林茂実各出席

(裁判官 小泉祐康)

別紙(一)の(1)

修正損益計算書

小沢大助こと 周文三

自 昭和56年1月1日

至 昭和56年12月31日

〈省略〉

修正損益計算書

周文三(雑所得)

自 昭和56年1月1日

至 昭和56年12月31日

〈省略〉

別紙(一)の(2)

修正損益計算書

小沢大助こと 周文三

自 昭和57年1月1日

至 昭和57年12月31日

〈省略〉

修正損益計算書

周文三(雑所得)

自 昭和57年1月1日

至 昭和57年12月31日

〈省略〉

別紙(一)の(3)

修正損益計算書

小沢大助こと 周文三

自 昭和58年1月1日

至 昭和58年12月31日

〈省略〉

修正損益計算書

周文三(雑所得)

自 昭和58年1月1日

至 昭和58年12月31日

〈省略〉

別紙(二)の(1)

脱税額計算書

昭和56年分

〈省略〉

別紙(二)の(2)

脱税額計算書

昭和57年分

〈省略〉

別紙(二)の(3)

脱税額計算書

昭和58年分

〈省略〉

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